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匠人(たくと)の視点

建物を診断する


有限会社 いすか建築事務所

所長 磯畑 脩氏(工学博士)


戦後すさまじい勢いで発展を遂げてきた日本。周りを見渡せば高層ビルに囲まれていたという感もある。毎日のように、ビル・マンション工事が各地で行われて いるが、今回磯畑先生とのインタビューを通して、改めて「建物をきちんと管理して、長く活用する」ということの重要性を感じた。

壊しては建て替えるの繰返しでは成り立たなくなってきている

古くなった建物を壊して新しいものを作るのは簡単。しかし、その前に何に使うか、どう使うかを考え、残すという選択肢もあることを認識する必要 がある。 1963年から大手ゼネコンの研究開発部門で原子力発電所の安全性研究をされてきた磯畑先生。第二次オイルショック後に建設投資が鈍り始め、大手ゼネコン の間でも多角経営化が模索されるようになった。新規事業計画として「建物診断事業」が打ち出された際、構造診断を行っていた磯畑先生の経験と知識が注目さ れ、この新規事業会社のリーダーとして指名された。当初5人でスタートした新会社だが、建物の維持保全に対する世間の高まりを背に、初年度から順調な滑り 出し。その後も、文化財級の建物などに関わっていく中で、戦前に建てられた建物は意外に、構造的にも、材料的にも丈夫なことに驚いたそうだ。磯畑先生の話 を聞いていくうちに、「古い建物だから取り壊そう」という安易な考え方に、「待った!」をかけられた気がした。

古い建物も立派に生き返っている

『小樽グランドホテルクラッシック』の外観。 以前、缶友会館であった頃、取り壊すしかないと思われていたこの建物を、磯畑先生が診断を手がけ、見事リニューアル。今でも昔の面影をしっかりと残してい る。 磯畑先生がこれまで調査に関わってきた建物には、いったいどんなものがあるのだろうか?その中には驚いたことに旧首相官邸がある。今から25年前、老朽化 が心配されて診断してみたら意外や意外。この建物は上質のコンクリートで施工され、しっかりした構造でできていたのだ。結果、現在の首相官邸ができるま で、修繕して20年以上も継続使用されてきた。磯畑先生自身、近くに行ったときには必ず寄ると言われる小樽の旧缶友会館(現在の「小樽グランドホテルク ラッシック」)。


『小樽グランドホテルクラッシック』の内観。戦前から存在するステンドグラスは今でも顕在。 ここは当時、あまりの外観の痛みのひどさで再生は無理と思われていたが、ネオクラッシック様式の造りは目を見張るものがあり、何とか残せないかと診断を頼 まれたところ、思いのほか再生できることが判明。そして今でも当時の面影を残したまま、市の観光名所のひとつになっている。また、磯畑先生が手がけたもの ではないが、古い建物の保存活用が成功した例として推挙されるのが、「倉敷のアイビースクエア」「札幌ビール工場」「函館の金森倉庫」など。いずれもモダンで古き 良き時代を彷彿とさせる素晴らしい建物ばかりだ。

「診断=悪い所を見つける」ではない

皆さんの家にも「屋根を無料で診断します」と営業の人が来たことはないだろうか?このような場合、多くはここが悪いあそこが悪いと言わ れ、毎日暮らす家だから仕方ないと多額の費用を支払うことになる。もちろんきちんと診断してくれる業者もあるのだが。『診断する』と聞くと、「どこに悪い ところがあるのか?」「悪いところはどこですか?」となりがちである。しかし、磯畑先生は『診断する』ということは、『良い所・残す所を見つけること』で もあると言う。もちろん『悪い所を探す』ことでもあるが、見つかった良い所を生かすことで、その建物が生まれ変わる。『診断する』とは、そのヒントを得る ことになるのである。また、どういう風に使うかで、その手入れの仕方も変わってくるのである。

人間を診断する場合は

10年くらい前、磯畑先生はある国立病院の先生から『診断学の最前線』の話を聞くことがあったそうだ。そこで聞いたのは、最新設備の揃った病院では、様々 な検査が行われ、詳細なデータを手にするが、実際に医師が診断書に向かったとき、データが診断のすべてではないということ。結局最後にいきつくのは「標本 照合」だそうだ。標本照合とは、これまでに得てきた知識・経験をもとに、標本と照らし合わせること。つまり、いくら機器の進歩した医学分野においても、 データだけでは判断できず、過去事例が拠りどころとなっている。磯畑先生は、建物診断でも同様に、これまでの経験・情報を生かすことが必要だと、建物予備 診断システムにAI(人工知能Artificial Intelligence)を取り入れようと考えた。その方法とは、各項目にランク付けを行い、それら全てを一対比較法で数量化(合理的重み付け)し、感 覚的に捉えた情報を点数付けしていくというもの。そうして完成したのが、45の質問項目からなる『S−MOUSE(建物予備診断システム)』だ。ちゃん と根拠をもった診断システムである。

診断はきっかけ

「わずか45項目の質問で何ができるのか?」この疑問に対し磯畑先生は、何ができるかというより、この『S−MOUSE(建物予備診断システム)』がきっ かけになることを期待していると言う。『S−MOUSE』が全てではないのだ。これはあくまで簡易診断ツールであり、このツールを生かすには、やはり建物 を定期的に観察し続けること(定期点検)が必要である。そうすると、今まで気づかなかったこと、分からなかったこと、意外なことが見えてくる。この定期点 検を行うことに、実はビルメン関係者は最適なのである。元々業務として定期的に訪問しており、そのついでに点検すれば良いのだ。磯畑先生は、今回本サイト に取り入れた『S−MOUSE(建物予備診断システム)』を、ビルメ ン関係者の方々が、お客様との接点として、これまでのサービスに加えて使ってもらいたいとする。

『S−MOUSE(建物予備診断システム)』


『S−MOUSE(建物予備診断システム)』で、診断したときの表示結果。 45項目の質問に答えるだけで、診断結果が瞬時に表示される。ゲーム感覚の手軽さで建物の状況を把握するヒントを得ることができるのが特徴。 建物予備診断システムへGo!!< /font>

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