匠人の視点

2008.12.11

清掃とは「人の心を変えていく、人生を変えていく偉業である」

株式会社イエローハット、日本を美しくする会

 

 相談役 鍵山 秀三郎 氏

 自動車用品の大型小売店、株式会社イエローハットの創業者である鍵山秀三郎氏。
 現在は、株式会社イエローハット、そして「日本を美しくする会 全国掃除に学ぶ会」の相談役としてご活躍されています。
 今回のインタビューでは、「清掃」をテーマにし、これまでの体験談や、清掃についての考え方など、様々なお話しを伺うことができました。

 

● 清掃活動を始めたきっかけ

 

 これまで、全国各地で清掃活動や講演会を行ってきた鍵山秀三郎氏(以下鍵山様)。現在その活動は、国内に留まらず、海外へも進出しています。その活動の原点ともいえる株式会社イエローハット社内においての清掃。まず始めに、創業以来現在も続けられている清掃を始めたきっかけをお話しいただきました。

 「そもそも両親がきれい好きであり、その影響を受けました。」と語り始めた鍵山様。
 鍵山様のご両親は、周囲の人に絶対に迷惑をかけないという心情があり、周りに気を配ることを大切にしていました。幼少時代を振り返り、「戦争で財産を全て失った当時は、貧しくはあったが、惨めではなかった」と鍵山様はいいました。当時の日本の様子なども伺い、それは心が豊かであったからであるということがわかりました。

 

 昭和28年、デトロイト商会に入社した鍵山様は、当時の社内の様子を「ひどく汚れていた」といいます。その時代は自動車業界全体が粗野で汚れていたそうです。
 車の油などで、汚れやすい環境にあるにもかかわらず、他の社員達は汚れているのが当たり前になってしまい、誰も掃除や片付けをしようとはしませんでした。そこで、汚い職場をキレイにしようと身の回りの掃除を始めたことが、鍵山様の清掃活動の始まりでもありました。しかし、実際に掃除を始めると、「どうせまたすぐ汚れるのに無駄なことをしている」と周囲の人の理解を得ることができません。当時勤めていた会社の社長でさえも「余計なことをするな」と理解してくれなかったそうです。
 当時、掃除の認識はとても低く、何もできない能無しがやっているという見方さえされたといいます。
 それでも、鍵山様は掃除を続けました。それは、「人間は汚染された環境の中にいると心まで汚染されてしまう」と考えていたからです。身の回りや道具を汚くしておくと使う人も汚く使うので、余計に汚れてしまい悪循環となります。その他にも、身の回りをキレイにすることで職場での事故や怪我を減らすことができると考えていたことも理由として挙げられます。運転する人にとっても、キレイな車で運転すれば心構えも違い、事故も減少するのではないでしょうか。
 そのような鍵山様の考え方が、後のイエローハットの創立とその後の発展に繋がりました。

 

● 掃除をすると人の心は穏やかになる

 鍵山様の清掃を通じての思いが、周囲に理解されるまで10年もの期間を要したといいます。その間にもう止めてしまおうと考えたことはなかったのでしょうか。
 鍵山様は次のように答えてくれました。人間であるから、いやになることはもちろんありました。当時を振り返ると、辛い思いをたくさんしてきました。その度に辛抱をしてきましたがとても辛かったです。私は今まで人から踏みにじられて生きてきましたが、私のような想いを他の人にさせたくありません。世の中には、自分さえよければよいとか、やられたらやり返すという考えの方もいるかと思いますが、それではもはや人間ではありません。掃除をすると人の心は穏やかになります。今でも掃除を通じて環境を良くすることが、この世の中を良くするための最善の方法であると考えています。
 掃除をするのは世の中を良くしたいだけであり、お金が入るとか余計なことに関心を持ちだしたり、何かを期待したりしたら継続することは困難です。

 

● 清掃という仕事について

 ある時、鍵山様がホテルに宿泊したときのこと、シャツのボタンが取れてしまい、ベッドの下に転がってしまいました。そのボタンを取ろうと手を伸ばしたときに、大量の埃が手に付着したといいます。目に見えないから汚れていてもよいのかというとそれは違います。
 清掃という仕事においても、目に見える部分だけをキレイにすればよいのであれば、より発注の価格は安くなります。そうではなく、一定以上の質を保てるように、また、より質のよい清掃が行えるように、業界を挙げて働きかけていくことは重要であると思います。


 

● ゴミを捨てることは良心を捨てることである。

 今の日本にないものとして、他者へのおもいやり、配慮が欠けていると感じます。昔と比較するとトラブルが多い社会になってしまいました。
 汚染された環境にいると人の心も汚染されてしまいます。世の中には、道端にゴミを捨てる人がいますが、ゴミを捨てることは良心を捨てることです。そうすると、そのうちに捨てる良心さえも失い、人を傷つけたり陥れたり、悪いことを平気でするようになります。

 

● 微力であっても無力ではない。

 朝会社に来て、ゴミ箱にゴミをいっぱい溜めて帰る。そして次の日の朝会社に来るとゴミが無くなっている。そうするとゴミが無くなっているのがあたかも自然現象であると感じてしまう。これは大変恐ろしいことで、それが当たり前になってしまったら人間ではありません。
 これでは日本はよい国であるとはいえません。自分の力は微力であっても無力ではないと思っています。例え微力な力であっても、その微力を掃除にかけて、清掃活動を通じて世の中がよくなればよいと考えております。
 また、駅のトイレなどで、清掃中の札を見かけることがあると思います。最近、その札があっても何も言わずに利用する人が多く見受けられます。鍵山様の場合は、クリーンクルーに一言「使用してもよろしいでしょうか」使用後には「ありがとうございました」と声をかけます。そうするとクリーンクルーは笑顔で応えてくれるといいます。
 たとえ清掃業者であり、お金を払っているとしても、掃除をしていただいているという感謝の心を忘れてはいけません。

 

● 不便を感じたらそのままにしない

 もし、日常生活をしていく中で、不便であると感じることがあればそのままにしないことです。整理整頓をすることは、とても大切なことです。
 職場などでは、散らかしたままにしておくと事故に繋がることもあります。
 今回、イエローハットの掃除道具置き場を拝見させていただきましたが、道具がとてもキレイに整頓されていました。この道具置き場は、先日、ドイツの国営放送でも取り上げられたそうです。

 

 

 

 イエローハットでは、社員さん達が自ら掃除をしているので、クリーンクルーの気持ちがよく分かるそうです。床清掃があるときなどは、クリーンクルーが作業しやすいように荷物を机や棚の上に上げておくといいます。そのように他者を思いやることが大切です。また社内におけるビルメン会社の選定については、決してコストだけで決めるのではなく、縁やお付き合いを大切にするそうです。「私は自分の行っている活動を宣伝するつもりはありません。しかし、上に立つものが、下のものの、苦労などを知らなければいけません。そうしないと、人に押しつけてばかりになってしまい、押しつけられた方は、やらされていうという感覚を持ってしまいます。経営者は現場を見て、その人達の苦労や思いを知らなければいけません。」

 

● 日本を美しくする会について

 「日本を美しくする会」が発足したのは平成5年。鍵山様の掃除哲学に学ぼうという有志の集まりとして結成されました。その主な活動は、各地の学校や公共施設のトイレを徹底的にキレイにすることです。
 発足前の平成3年に、現在の「日本を美しくする会」会長である田中義人氏(以下田中様)と知り合った鍵山様。そこで、設立のきっかけとなった出来事があったとお話を伺うことができました。

 鍵山様と知り合った田中様は、鍵山様の清掃哲学を学び、深い感銘を受けました。「まずは近所の神社の掃除をしよう」と、自宅の近くにあるゴミだらけの神社を清掃したそうです。すると、それまで、こども達の遊び場と化していた神社が、見事にその風格を取り戻したといいます。
 神社を毎朝掃除していた田中様は、ある朝、朝日に照らされた社殿が荘厳な気を発していてとても感動し、改めて清掃の素晴らしさを感じたそうです。
 これだ!と思った田中様は、改めてトイレ掃除の研修を受けるために鍵山様を訪ねました。自ら研修を受けた後は、自社の全社員に対して、掃除研修を実施しました。
 そうすると、それまで、自分の仕事さえすればよいとバラバラであった社内の雰囲気が変わり、助け合いの心が芽生えるようになったといいます。

 「日本を美しくする会」活動開始以来、その運動は各地に広がり、日本全国47都道府県で開催されるまでになりました。外国ではブラジル、中国、ニューヨーク、台湾にもそれぞれ設立され、現在も定期的に開催されております。
 海外での思い出話も伺いました。先日、台湾に行った際は、523人もの人たちが、トイレ掃除をするために、台湾へ行ったそうです。皆、積極的に取り組む姿がとても印象的であったと鍵山様はいいました。
 中国では、トイレの汚れがすさまじかったといいます。「自分が用を足してしまえばあとはどうでもよい」という考え方が、トイレの汚れとして現れていました。鍵山様の奥様も一緒に清掃活動を行うことありますが、北京だけはとても苦労したとお話ししていたそうです。しかし、「日本を美しくする会」の活動によって、北京の大学のトイレは見違えるほどキレイになったそうです。
 「トイレをキレイにする文化は日本だけの文化である。そこに日本人の心があるのではないでしょうか。」
 清掃活動を通じて、学校でこども達と一緒にトイレ掃除をすることがあります。学校では、先生よりも生徒の方が積極的に掃除に取り組むようです。ある中学生の女の子が書いた掃除体験の作文にはこうあったそうです「今まで清掃はやらされるものであると思っていましたが、清掃はやらせていただくものであるということがわかりました」。学校からは来年も是非実施したいとの意見を頂いたそうです。最近では、横浜や京都でも全ての小学校で児童がトイレ清掃をすることを教育の一環として取り入れることが決定されました。
 そのような社会的背景も踏まえて、「日本を美しくする会」は、開催するたびにその輪を広げ、一年間でこの会に参加される人の数は延べ10万人以上に達しております。今後はますます多くの人々の理解を得て、大きな活動に発展していくのではないでしょうか。

「日本を美しくする会 掃除に学ぶ会」公式サイト  http://www.souji.jp/

 

● 清掃とは「人の心を変えていく、人生を変えていく偉業である」

  次の世代のために、この国をこのままの状態で残してはいけません。日本は自分が生まれたときよりも悪い国になっているのではないだろうかと心配になることがあります。当時よりも、良い国にして次の世代に受け継いでもらいたいといと考えています。
 この世に鬼はいませんが鬼のような人はいます。しかし、その人が悪いのではなくそうさせた社会に問題があると考えます。そのような人間は、いわば、社会が生み出した鬼子なのです。
 犯罪者も掃除で更生していく事例はとても多いです。大変な罪を犯した人から、「刑務所で鍵山様の出版図書を読み、掃除を行い、心が洗われた」と感謝の手紙が届くことがあるそうです。つい先日も刑務所の中で清掃活動を広めたいので、指導にきてほしいとの手紙をいただきました。他にも、凶悪な犯罪者が、清掃をすることによって、人相がすっかり変わり穏やかになったという事例や、非行少年が更生したという事例もあります。ですから、清掃とは、人の心を変えていく、人生を変えていく偉業なのです。

 鍵山様は清掃を高く位置づけています。最終目標としては、日本のゴミを全て拾うつもりでいると笑いながら話してくれました。掃除に対して、つまらないことをやっているとか、やらされているとか、そういう姿勢で取り組まないで欲しいと鍵山様はいいました。
 繰り返しになりますが、掃除をすると心が穏やかになります。また掃除をすると物事に気づく人になります。さらに、物事に気づく人になるためには「徹底した掃除」と「人を喜ばせること」この2点の意識を持つことと、積み重ねがとても大事です。
 鍵山様と日本を美しくする会は、日本をよりよい国にするため、今後も清掃活動を続けていきます。 

 

● プレゼントのお知らせ ※終了いたしました(多数のご応募ありがとうございました)

応募に際し、「記事を読んだ感想」を皆様にお寄せいただきました。
その一部を以下の通り掲載し、ご紹介させていただきます。

トイレ掃除を通して本当にヒトは変われるのか?何年やり続けても何も考えずただ掃除をしているだけでは何も変わらない。変わりたいと思う心が無ければ意味が無いのでしょう。
 道で一つのごみを拾う勇気が自分に有るのか今度実践してみたいと思います。
記事の中で、「日本を美しくする会」会長田中様の体験談に特に感銘を受けました。
 私どもの会社は、毎月1日に大分駅から支社まで、ゴミ拾いを実施しております。現在42回目ですが、その行動に喜びより、義務的になっている気がしておりました。
 「トイレ掃除の研修を通じて社内の雰囲気が変わり、助け合いの心が芽生えるようになった。」行動に哲学があれば喜びとなり、意味のあることに思えてきました。
 助け合いの精神は、家庭、地域社会、企業、国家にとって今一番不足している部分であることは、皆さん感じておられると存じます。
私もクリーンクルーの教育を担当しております。鍵山先生のお話の中の「清掃とは心を変えていく、人生を変えていく偉業である」という言葉に感銘しています。
 研修の中でも、時にこの話をさせていただいております。また、そうした気持ちを持ち続ければ、自分たちも清掃という仕事に誇りを持つことが出来るのですと話しております。

 

心あるところに宝あり/鍵山秀三郎

 今回、鍵山様の著書「一日一話 人間の磨き方・掃除の哲学・人生の心得」に直筆サインを頂きましたので、ご応募いただいた方の中から抽選で3名の方にプレゼントさせていただきます。メールにてご応募ください。応募方法は以下の通りとさせていただきます。
 なお、申し込み締切は平成21年2月2日(月)17時とさせていただきます。
<応募方法>
※締め切りました
件名:鍵山様出版図書希望
本文:「氏名」、「連絡先電話番号」、「連絡先が会社の場合は会社名」「記事を読んだ感想」をご入力ください
※当選者の方には、メールで連絡した後に郵送させていただきます

 最後になりますが、今回の取材にあたってご協力を頂きました鍵山様を始め、阿部様、清水様にこの場をお借りして深く感謝申し上げます。

 

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